母がわが子へ語りかける柔らかく慈しみに満ちた声。数十年前の友人の声がいまだに耳に残っている。友人の息子は生後すぐに網膜芽細胞腫で両目を摘出した。母である彼女は、盲目の息子の目となり、彼の成長に伴い語り続け、教育をした。そうして、息子はいつしか国際的に活躍する大人となって立派に独立。彼女に子育ての極致を見た思いがしたものだ。声だけで伝わる情愛。子育てとはなんと、奥の深い尊いものなのか…。友人に比して自身の子育てを思い起こすと冷や汗ものだが、絵本の読み聞かせは不如意な母の喜びだった。絵本を通して湧きあがる感情の起伏を幼き子どもたちと共有する。あの豊かな時間が思い起こされる。
(安)